Pitching Review & Proposal / For N. Uwasawa

上沢 直之2026シーズン 投球の振り返りと、次への提案

対象 2026シーズン 13先発(3/27–7/21) 比較基準 2025年9月 好調期 4先発 分析 1球単位トラッキングデータ(2026:1,331球)
2026シーズンの投球を、1球ずつのデータから振り返りました。
まず最初に伝えたいのは、球速も回転数もむしろ上がっており、投げる球そのものの力は落ちていないということです。初球からストライクを取る「入り」も良好で、先発としての土台はしっかりしています。
課題は一点に集約されます ── 「追い込んでから仕留めきる力」。ここが本レポートの主題です。原因を事実で整理し、最後に具体的な提案を3つにまとめました。数字は厳しく出しますが、いずれも取り戻せる範囲の課題だと考えています。
Analytics & Pitching Staff
総括 / Summary

問題は「入り」ではなく「締め」。 1試合の球数はほぼ同じ(102球)だが、同じ球数で稼げる回が1イニング以上減った(7.2回→5.9回)。フォークとパワーカーブという決め球の使用が減り、直球のキレも落ちたことで、追い込んでも仕留めきれずファウルで粘られている。球威の数字はむしろ向上しているのに、それを「差し込み」に変換できていない状態。

球数 / アウト
5.8
▲ +0.9
投球回 / 試合
5.90
▼ −1.27
Put-away率
42.4%
▼ −7.6pt
ファウル率
23.1%
▲ +6.0pt
01

今、できていること

Strengths

課題の話に入る前に、維持できている強みを確認します。ここは崩す必要はありません。

球の力・制球

  • 直球 148.6km/h(+1.7)。全球種で球速・回転数が上昇。疲労由来の球威低下はない。
  • 初球ストライク率 61.8%(好調期59.5%)。カウント先行の「入り」はむしろ改善。
  • ゾーン率 46.1%。ストライクを取る制球の土台は健在。

武器そのもの

  • フォークの空振り率 33.6%(対スイング)と一級品。むしろ昨秋より鋭い。
  • パワーカーブの球質(高回転・大きな割れ)は維持。球そのものは衰えていない。
  • 奪三振率22.7%と、先発の水準は保っている。

つまり「素材」は落ちていない。以下の課題は、素材の使い方・組み立ての問題として読んでください。

02

球数増の正体 ── 効率が落ちている

Efficiency

1試合の球数は変わっていません。変わったのは1球あたりの仕事量。追い込む回数は同じなのに、そこから三振に届かず、ファウルとフルカウントが積み上がっています。

指標2026好調期
球数 / 試合102.4105.0ほぼ同じ
球数 / アウト5.84.9+0.9
投球回 / 試合5.907.17−1.27
2ストライク到達からの三振(Put-away率)42.4%50.0%−7.6pt
フルカウント / 試合5.63.0+2.6
要するに
追い込む力はある。だが決め球が機能せず仕留めきれない。1打者あたりわずか0.25球の増加でも、シーズン330打者に積み上がると回の消化を1イニング以上削り、被打球も強くなる。次章から、その「仕留めきれない」理由を分解します。
03

要因① 直球のキレ低下と、高め・真ん中の危険

Fastball

球速は上がっているのに、ホップ成分(縦変化)とリリースの伸び(エクステンション)が落ちています。数字上の球威が、打者への差し込みに変換されていません。

直球の球質 ── 2026(右添字は好調期比)
指標2026好調期比
球速148.6km/h+1.7 ↑
回転数2,596rpm+45 ↑
縦変化(ホップ成分)47.8cm−1.9 ↓
エクステンション195.4cm−1.3 ↓

※ エクステンションは全球種で−1.3〜−3.4cm短縮。リリースが後方に下がり、体感速度と「見えにくさ」が目減りしている。

その結果、高め・真ん中の直球が打たれている
  • 直球の被安打19本のうち17本が「高め・真ん中」。 直球で打たれた安打のほぼ全て。
  • 被本塁打8本中5本が「高め・真ん中」、長打(2B+3B+HR)は直球が6本で球種別最多。
  • 高め・真ん中の直球で、空振り率 25.0→21.2%(当てられる)、ファウル 26.0→35.8%(粘られる)、平均打球速度 125→133km/h(強く返される)。
  • にもかかわらず、直球を高め・真ん中に投じる比率は 51.0→57.8% に増加。ホップの落ちた直球を、最も打たれやすい場所へより多く運んでしまっている。
04

要因② 決め球の変化 ── フォーク減とカットの空振り消失

Put-away

好調期に最大の武器だったフォークを約半分に減らし、直球・シュート・カットの速球系へ比重を移しました。最も空振りを奪える球を減らしたことが、決め球不足に直結しています。

2026好調期
直球
29.8%
23.3%
フォーク
15.6%
33.8%
カット
15.2%
10.7%
シュート
13.0%
6.9%

使用率(バー長は最大値=フォーク33.8%基準)

2つの誤算
  • 直球のファウル率が18.4→30.3%へ倍増(要因①のキレ低下と一致。速球に高確率でバットを合わされている)。
  • カットの空振り率が37.5→13.2%へ激減。 ただしカットの変化量・球速はほぼ不変で、球質が落ちたわけではない。原因は使い方の変化:使用数が2.4倍に増え、2ストライクでの多投(11→26%)・ゾーン率上昇(42→49%)で「振らせる球」から「置きにいく球」に変質し、打者が釣られなくなった(chase 42→29%)。※好調期は24スイングの小標本で、37.5%は偶然の上振れの側面も大きい
  • 皮肉にもフォーク自体の空振りは33.6%と今も一級品。効く球を減らしたことが構成上の損失になっている。
05

要因③ 緩急の消失 ── パワーカーブとスローカーブ

Tempo

上沢の代名詞である「速球と大きな変化球の緩急」。その両輪が、特に直近で機能しなくなっています。球速・変化量は落ちていないので、これも使い方・見せ方の問題です。

パワーカーブ(約126km/h・主力の割れ球)
指標2026好調期
球速 / 回転数 / 変化量ほぼ不変(球質は健在)
CSW(見逃し+空振り)32.3%44.4%−12.1pt
空振り率(対スイング)22.6%33.3%−10.7pt
スイング率41.7%27.8%+13.9pt

スイング率が上がり空振りが減った=早く見切られ、当てられている。昨秋はCSW44%の一級品だったが、平均的な球に低下。2026年内でも直近4試合は空振り18.2%・ゾーン率52.2%と「置きにいく」使い方に傾いている。

緩急そのものが薄れている
スローカーブ(約116km/h)の使用率は 2.6→1.1%(13試合で15球、直近2試合はゼロ)で、実質お蔵入り。パワーカーブとスローカーブの合算使用率も、序盤6試合10.7% → 直近4試合5.8% → 直近2試合わずか2.8%。速球偏重により、上沢最大の武器である「速球と緩い変化球の落差」が、たまに投げても読まれる状態になっている。
06

ゾーンの使い方の変化

Location

全体のゾーン率は横ばいですが、配球の質感が変わりました。大きく外すムダ球を減らして競り合う球を増やし、特に直球を高め・中央へ集める傾向が強まっています。キレの落ちた直球を、最も打たれやすい場所へ運ぶ流れです。

直球のゾーン内配分 2026
直球のゾーン内配分 好調期

数値=各マスに投じた直球の割合(%)。上段=高め。色が濃いほど集中。

直球の高め集中は20.4→23.5%、ど真ん中は5.1→7.1%へ上昇。本来「高めの直球」はホップで空振りを奪う球だが、縦変化が落ちた今は高め=合わせやすい球になり、ファウルと痛打を招いています。

07

次への提案

Proposals

課題はすべて「素材の使い方」に起因します。以下3つは、球質が健在な今だからこそ効果が見込める打ち手です。

1

決め球フォークの復権 最優先

2ストライク局面でのフォーク使用を、好調期の水準まで戻す。使用を半減させたことが決め球不足の最大要因。フォーク自体の空振り率は33.6%と今も一級品で、投げれば効く状態にある。

狙う効果 ── Put-away率(42.4%)と球数効率の回復
2

直球は「キレ」を取り戻すまで、高め依存を抑える

エクステンションと縦変化の回復に取り組む。回復途上は、高め・真ん中への直球比率(57.8%)を意図的に下げ、低めや際どいコースへ散らして被弾リスクを管理する。高めはホップが戻ってから改めて武器にする。

狙う効果 ── 被本塁打(8)・強い打球・ファウルの抑制
3

緩急を取り戻す ── 割れ球を「振らせる球」に戻す

パワーカーブをゾーンに置きにいくのではなく、ボールゾーンで振らせて空振りを奪う本来の使い方へ。あわせてスローカーブ(現状ほぼ不使用)を見せ球として復活させ、打者に速球への的を絞らせない。速球偏重の組み立てを、緩急のある本来の形へ。

狙う効果 ── パワーカーブのCSW(32.3%)回復と、速球の被弾軽減
補足:カットの扱い
カットは空振りが取れなくなっている(13.2%)。振らせる球としてではなく、ゴロを打たせる/カウントを整える球と割り切って用途を分けるか、精度を再整備するのが現実的。決め球はフォークとパワーカーブに集約する方が、組み立てはシンプルになる。